006.悲しくも、安寧



 眠ろう、眠ろう、と……何時間も愛猫を撫でながらベッドで粘って到頭あきらめた。
 それならそれで、やればいいことは山ほどあるのに、とても手につきそうにない。

 わたしは何を根拠に安心していたんだろう。何を頼りに変わらぬものを信じていられたのか。突然の大波には為す術もない。攫われて粉々になるのを眺めるだけだ。

 まだ失ってもいないものをそんなふうに手放してしまうのは、わたしにできる唯一の防御。わたしは自分のことがよくわかるから。そうしなければ、やがて自分がどうなってしまうのか、知っているから。


 あのとき。
 ひらりと捨て去られたわたしの想いを、少しずつ少しずつ時間をかけて宥めすかした。あんなに話した時間はなんだったのか、“表向きの言葉を操れる大人”のひとは、どうせ本音を答えることはないだろう。だからわたしも訊ねない。静かに静かに、息絶えた想いの墓を建て、誰にも云わずに独り葬った。憎まないまま、恨まないまま、在りたい自分を護ったままで、やっと忘れられた。わたしにも愉しい日々はあり、大切な居場所があったから。


 そんな過去の亡霊がヴァンパイアのように襲ってくるなんて……今度は無理だ。傷ついていない振りはもうできない。もう血が噴き出してしまう。もう、きっと憎んでしまう。
 逃げるしかない。薄っすらとした覚悟には、じわじわと“そうするべきだ”という理由が積もる。とどめを刺してもらえることを、わたしは待っていたのかもしれない。

 そうでないといいな、なんとかできるといいな、、、でも、まだ揺れていた未練には勝ち目がなかったみたい。恐らくは悪気もないことも、単なるタイミングも、天晴なほどにヴァンパイアの味方。それも縁であるのだと、わたしは降参するのが早い。

 全部失えば、もう楽になれるから。見ないで、聴かないで済むのなら、わたしの世界は果てしない荒野でも構わない。どのみち、誰の心にも留めてもらえないわたしの四方山話など、海にでも聴いてもらえばいいんだから。

 身を剥がすほどに大切なものは、これからもきらきらと眩しくて、とても近くて、あまりに遠く、焦がれるのにはこの上もない。全く、わたしらしい。このほうがわたしらしい。

 こうして、どうしようもなく住み続けるわたしの七面倒くささは、善人である方々を混乱させるだけなのだもの。本意じゃないよ、そんなのは。



 びっくりするかもしれないけれど、だらだらと書き連ねたこれらは全て、わたしの心からの友情のお話。






 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です